4th (Major 1st) Mini Album 『蜃気楼』
ピロカルピンのメジャー第1弾、現メンバー初のアルバムとなる最新作。レコーディング&MIXエンジニアに牧野英司(ex.スピッツ、BUMP OF CHICKEN、Cocco etc.)、マスタリングエンジニアに小島康太郎(ex.サカナクション、9mm Parabellum Bullet、tacica etc.)を迎え、アルバムならではのコンセプトのもと全曲を新曲で固めた渾身の1stアルバム。
[収録曲]
1. メトロ
2. 未知への憧憬
3. 暗夜航路
4. よだか
5. タイムパラドックス
6. 祈りの花
7. 不透明な結末
2012.5.16発売
型番:UPCH-1876
Price: ¥2,100(tax in)
■『蜃気楼』発売時のナタリーインタビュー http://natalie.mu/music/pp/pirokalpin03
砂漠の中で見つける理想郷。それが、私にとっての蜃気楼のイメージです。
それは、止まってしまいそうな歩みを前に進めてくれる、希望の象徴です。
今回の作品が、聴いてくださるみなさんにとっても、そんな存在になれたら嬉しいです。
松木智恵子(Vo., Gt.)
みなさんは『蜃気楼』という言葉に何を思い浮かべるでしょうか。
僕にとって音楽は、心の蜃気楼を発生させるものでありました。
蜃気楼は光の屈折による現象です。
でもそれはニセモノではなくて実体がなければ起こらないのです。
ピロカルピンの「蜃気楼」の音が屈折を起こし、みなさんの心に蜃気楼を呼び覚ますことを願っています。
岡田慎二郎(Gt.)
ピロカルピンの『今』が凝縮された作品に仕上がっていると思います。
一音一音、丹精込めて作りました
この作品を聴いてくださる皆さんに、このアルバムから何か前向きなエネルギーを感じて頂ければ幸いです。
スズキヒサシ(Ba.)
今回のアルバム『蜃気楼』は、僕たちににとってさまざまな思いが込められた作品になりました。
1曲1曲が個性的であり、光を放っています。
このアルバムを聴いてそれぞれの蜃気楼を見つけてくれたら嬉しいです。
荒内 塁(Dr.)
Major 1st Album『蜃気楼』オフィシャルインタビュー
取材・文 青木 優
ピロカルピンの世界には、不思議なトーンが宿っている。
バンドの音のクオリティはすさまじく高い。松木智恵子の心模様が描かれた楽曲はじつにポップなメロディを持ち、それが彼女の明瞭な声によって高らかに、気高く響いている。その歌を支えるアンサンブルは精緻にして絶妙。ハイレベルなバンドだ。
そして、ここまでの地点に到達するために、決して短くはない期間、格闘を続けてきた事実。それがピロカルピンというバンドの重要な性格の一端につながっている。
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メジャー・デビュー第1弾となるアルバム『蜃気楼』には、<理想郷>というコンセプトが掲げられている。つまり主人公には目指している目的地があり、強く追い求めているものがある。しかし、それは本当に存在しているのか? もしかしたら手に入らないものではないのだろうか? という冷静な認識も、ここにはある。
「バンドにおいては、飢餓感みたいなものが、つねに付きまとっていました。今までの道がずーっと続く砂漠だったとしたら、今回のアルバムでは<その先に蜃気楼が見えてるから、もうちょっと進めばいい場所があるんじゃないか?>みたいな。でも、どこまで行っても終わらないな、っていうことは、今感じています」(松木智恵子/ヴォーカル&ギター)
飢餓感、砂漠……? 松木は、バンドのフロントマンのキャラクターとしては決して強烈な部類に入るほうではなく、むしろナチュラルな雰囲気が素敵な女性だ。だから彼女からそんな強い語感の言葉を聞くと、ちょっとドキリとする。
しかしそうした心理は、ピロカルピンの歌に確実に刻まれている。1曲目の「メトロ」には<何番線が正解ですか?/生き残れ あせらず>という印象的なフレーズがある。
「この曲はストーン・ローゼズみたいな感じにしたいという気持ちがあって、わりとリバービーなサウンドに仕上げています。その音を聴きながら、これは地下鉄のイメージだなと思って、メトロをモチーフにしました。ピロカルピンの歌詞に関しては、自分の置かれてる状況とか、ふだん考えてることが自然に反映されますね。だから、やっぱり今のバンドの状況も表してるのかなって」(松木)
「基本的に、追い求める系の歌詞が多いですね。松木さん自身、向上心が高いので、歌詞には希望だとか、未来に関する言葉が入っていることが多いです」(岡田慎二郎/ギター)
そう、追い求める気持ち。インディで発表してきた作品に翻っても、松木は一貫してそうした感情を歌にしてきている。
とはいえ、それが先ほどの飢餓感とか砂漠とかの(文字通り)乾いた表現に至ってしまう背景には、このバンドのそもそもの構造が大きいのだということが、対話をしていくうちに判明した。しかもそれがピロカルピンの音に――高度でクールなこのサウンドに結実している要因でもある、と。
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ピロカルピンの始まりは、松木がインターネットのメンバー募集サイトからバンドを立ち上げたところからだ。幼なじみでも同級生でもないし、学校のサークル内でも、「あんなバンド、カッコいいからやりたいよな」的な音楽仲間としての集まりでもない。そしてバンドの中心は、今も昔も、松木の作る楽曲である。
「日本語のギター・ロックをやりたくて始めたら、みんな<面白そうだから>って集まってきたんですけど、やりたいことはバラバラでしたね。ベースの人は『メタルがやりたい』と言って2ヵ月ぐらいで辞めていったし(笑)。そうやってメンボをかけて、また補充する……というくり返しでした」(松木)
ピロカルピンの頭脳と言えるギタリストの岡田も、厳密には2代目のギタリストとのことだ。初ライヴの時には在籍していたものの、である。
「松木さんは、まず声が特徴的だなというのと、メロディと歌詞が独特だなと感じていました。僕自身はUKのスウェードとかザ・スミスとか、ヴォーカルに負けないぐらいギターが主張してるバンドに憧れてたんですけど、松木さんのように声がよく抜けるなら、好き放題弾いても大丈夫かな、と」(岡田)
それから現在までは悪戦苦闘の日々。とくに移り変わりが激しかったのはリズム隊だ。ベースのスズキは一昨年、ドラムスの荒内は去年加入したメンバーだが、いずれもなんと8代目(概算)なのだという。
「最初は『悪くなければやってください』みたいに、すごく申し訳なさそうに頼んできたんですよ。その頃のバンドには<どうせ言っても伝わんないでしょ>みたいな空気があったし(笑)、そういう言い方になってたのは、それだけメンバーが替わっていたからだと思うんです。今は、自分が思っている方向にバンドが向かっているから、やってて楽しいですけどね」(スズキヒサシ/ベース)
「僕も『最初はお互いに試用期間で』みたいに言われました(笑)。だけどみんな、音楽にはケンカするぐらいの勢いで、マジメにストレートにぶつかってる気がします。僕が入った時も、その瞬間からけっこう荒れてたというか(笑)、みんなの意見が飛び交って、それがヒートアップして、ケンカになることもありました。ただ、それはマジメに取り組んでる結果だし、今はいいバランスになっていると思います」(荒内 塁/ドラムス)
プレイヤーに遠慮がちな物言いをするぐらい、センスの合う人材を捜すことに松木たちが疲弊していたことがわかる。その一方で、ケンカ腰になるほど言い合うことがあるというのは、このバンドの秘めた激情をうかがわせる話だ。
「ひとことで言うと、すごくわがままなんだと思います。『こうじゃなきゃヤだ!』というのがあって……。私が極端なんだと思います(笑)」(松木)
「音楽が関わると気性が激しいですね。けっこう殴り合いに近いケンカをしていますし。蹴りとか飛んできた時期もありましたからね(笑)」(岡田)
それについてこれなければ――そのぐらい松木の楽曲に惚れ込み、このバンドに賭ける心構えがなければメンバーとしては続かない、ということだろうか。ピロカルピンには、それだけこの音楽のために、人材がふるいにかけられてきた歴史があるのだ。
「会社みたいなものですよね。でも僕も松木さんも社会人経験があるんですけど、そこで会社の目的に対して、すごいストイックに頑張ってる人が多いのは感じたんです。つまり、ピロカルピンという会社があって<こういう音楽をやります>と。<じゃあみんな、それに向かって頑張りましょう!>ということですね(笑)」(岡田)
「今のメンバーはみんな、この音のためだけに集まってる人たちだから、自分の実生活に支障がない関係というか。だから私も『これは嫌い』『こっちのほうがいい』と言えるんですよね」(松木)
なんとドラスティックな言葉だろう。しかしこれは、ようやく現体制を獲得したこのバンドだからこその強みでもある。逆に言えば、今までなかなかうまくいかなかった事実が途轍もなくデカいのだ。
「けっこうそれが悔しさとか、<見返してやる!>という気持ちとか、執念につながっていったと思います。意地っていうか……」(松木)
下を向いた松木が、静かに語った。この言葉の時点で、ピロカルピンの怖さを感じた。
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ピロカルピンのサウンドは、ストレートなようでいて、しっかりとヒネリが仕込まれている。基本はポップだし、ギター・ロックではあるけれども、そういった表現で丸めきれないほどの要素がたくさん散りばめられているのだ。かといってポストロックというほどそこに主眼が置かれたり、コネくり回されたりはしていない。このバンドの音楽は、イメージ以上に多層的で、多重的だ。
アルバム『蜃気楼』も、7曲というサイズの中で、聴きどころが多い。機知に富んだ「未知への情景」のサウンドメイク、レゲエのリズムが巧妙に織り込まれた「タイムパラドックス」のアレンジ。かと思えば「祈りの花」などは、歌ものとして純粋に秀逸だ。そしてラスト、凛としたギター・ロックの「不透明な結末」で綴られる<理想郷>というコンセプトの結末……。
果たして件の飢餓感は、砂漠を抜けた末に、どうなったのだろうか。
「飢餓感は全然収まってないです。逆に、今まではメジャーという選択肢があったんですけど、そこはもう経験済みになってしまったので、今度はその不安が出てきましたね。ほんとに欲深いなと、自分でも思います(笑)」(松木)
「でも今は<ついに逆襲が始まるかな>という気持ちですね。インディーズ・ロック・シーンではそんなに相手にされなかった実感があるんですけど(笑)、フィールドが変わることで、ピロカルピンが大事にしてきたことがようやく世に広がるタイミングかなと思うんです」(岡田)
今度は逆襲、か。そうだ。キバを研いできたのだ、このバンドは。
「そうですね。これからは、主に刺激を求めるような人たち以外にも聴いてもらえるようになれると思うので。そこはすごく楽しみです!」(松木)
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ピロカルピンは、世界を見返そうとしている。
ピロカルピンの逆襲が、ここから始まる!